Sunday 3 June 2012

未来のアーティスト達

今年の3月だったか、4月だったか。
相方が地元の高校で美術を教える機会をいただき、2回だけの特別授業を開催してきました。

たった2回。ほんの数時間。
15歳〜16歳(かな?)の生徒25人の美術クラスで、何を題材にどう教えるか。久しぶりに教壇に立つことになり、かなり緊張感があったよう。(今まで、高校や幼稚園で講師をしていたこともある。)

題材にしたのは、薬箱のようなパッケージデザイン。
もちろん、ただのパッケージデザインなわけありません。

私が表現するならば、こんな感じだと思う。
「こんな気持ちのときに、この箱を開けてください」

中には紙が1枚。
内容ブツは、一篇の詩。

おわかりでしょうか。
詩が人の気持ちに与える効用(?)を具体化、商品化することがこの授業のテーマなのです。

相方が考えついたアイデアではない。若い頃、本を与えるように誰かが相方に与えた小さな箱、まさに薬が入っていそうな箱で間違えてしまいそうなくらいだけど、中には短い詩が入った箱。ここからヒントを得ている。
残念ながら、イタリア語版はどこかにいってしまって、手元にあるのはスペイン語版のみだったけど、この箱を片手にエネルギッシュな高校生25人の中に、おっさん一人、入っていったわけです。

この課題には要素がいっぱい。
詩を選び(多分、全員、有名な詩や歌詞を選んでいて、自分で書いた人はいなかったと思う)、パッケージデザインを考えてデザインする。
パッケージデザインは、普段から目にする薬箱や化粧用クリームの箱などをよく観察しなければならない。箱の形、色、開閉方法、写真や文字のレイアウトはもちろん、商品名、効能、成分、有効期限、使用後のケースのリサイクル方法、バーコードなど、箱の表に記載する内容をひとつひとつ細かく考えて決定しなければならない。これって、マーケティングの要素もあるってことですよね。
パッケージをデザインするだけではなく、パッケージの展開図、サイズも研究して、最終的には紙でパッケージを工作しなければならない。

2回の講義を終えて、発表展示をするとの連絡が入った。
父兄や一般も入れるようになってたので、私も行ってきました!



生徒達の作品の一部を紹介します。クレマのレオナルド・ダ・ヴィンチ科学高校の生徒の作品です。

Labori dai studenti Liceo Scientifico L. da Vinci, Crema

例えば、白い箱。コンタクトレンズの箱を模してます。
選んだ詩は、ラドヤード・キプリングの『If(伊題:Se)』。
成分は、詩の構成に関係する文法用語のようなものが使われているので、私にはうまく説明できませんが、効用は直訳すれば「安定した考え方や決断を視覚化する能力を呼び戻す」とあります。
『If』は有名な詩だと相方から言われましたが、私は知りませんでした(ほほほ、無知なもんで)。イタリア語では解釈しにくいので、ネットで英語を探して「なるほど!」。
詩、内容、パッケージにコンタクトレンズを選んだこと、などなど、全体を通して、私には気に入りました!

そして、縦長の箱はイタリアの狂気の詩人と言われる(らしい)ダヌンツィオの詩『La Pioggia nel Pineto』が題材。
詩の意味はわからないけれど、気に入ったのはパッケージに書かれている「自然由来の”耳を傾ける”ことに富んだ成分です」の一言。うーむ、なんだか深いなぁ。

白黒の箱はイタリアの詩人、パスコリの『Il Lampo』。
残念ながら、、、中身が空だった、、、。でも、箱には「懐中電灯のように使えます」と。どうやら、先が見えないときに照らしてくれるものなのかな。

他にも「愛情にフィルターをかける効能」とか、「このクリームを使えば心が弾む」とか。ガムのパッケージを模したのもありましたよ。

少しの時間、作ったときに難しかったこと、作った後の感想など一言いう時間があったんだけど、面白かったのはある男の子。
「こんなんやりたくなかったし、興味もわかなかったし、作っている間もつまんなかったけど、できあがってみたら超気に入っちゃった」と。
夏休み前にいい作品ができて良かったね!


さて、私が25人の作品のうち、なぜこの3つだけ手元にあるかというと、、、。
各自10個ほど作って、物々交換ならぬ、詩交換してたんですよ。
詩交換というのは、作品が欲しければ、自分で詩を書くか好きな詩を紙に書いて、設置してある箱に入れて作品を受け取るというシステム。やること、にくいねぇ、ヤング達!
私がイタリア語でも英語でも詩など書けるわけないので、松尾芭蕉の俳句を日本語で書いて渡してきました。



今回の作品展示に一番感動していたのは相方。
まさか生徒達が自分たちだけでここまで素晴らしい作品を作るとは驚きだったみたい。
あまりに感激して、相方が友達と近々開催する展覧会に、高校生達にコラボ依頼したとこですよ。
若い未来のアーティスト達の作品が学校外で展示されるの、楽しみです!


2 comments:

  1. 自分で考える」ように導くのが、
    一番難しい「教えること」だと思うなぁ。
    素晴らしいレッスンだったね!

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    1. 385さん、
      ほーんと、おっしゃる通り! 今回の高校生達の作品には感動したわ。

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